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第 33 回 『 人を大切にする 』ということ

2022.10.30

 コロナ感染第8波が憂慮される中、全国旅行支援や水際対策緩和が進み、東京でもGo To イートのプレミアム付き食事券の販売も再開しました。いよいよ我が国も経済を優先し、『 ウィズコロナ 』の本格化に向かうのだと思います。街の中では外国人の姿も、徐々に増えてきています。追々大口の外国人観光客である中国人も、大挙して来日するようになるのでしょう。この流れに向け皆様方は、来客数や売り上げの増加を見据え、人手の確保にご苦労なさったことと思います。

 我が国の生産年齢人口は1995年をピークに減り続けてきましたが、労働人口、つまり就業者数は増えていました。それは専業主婦や高齢者が労働参加するようになり、そこに外国人労働者が加わったことによる現象でした。しかしこれから団塊の世代が引退し、円安によって外国人労働者( 日本人でさえ )が日本から離れる事態になれば、『 人材 』を本気で『 人財 』として大切にしなければ、人手不足のため飲食店も、廃業の憂き目に遭うことになると危惧いたします。
 今後AIやロボットの導入が進んだとしても、人ならではの仕事が、飲食店から無くなることはありません。しかも収益はスタッフさん方の貢献の賜物ですから、飲食店経営にとっても好ましい人財の確保と定着を図ることが、益々生命線となってくる訳です。

 昔の飲食店の求人広告には、『 家庭的なお店です 』という文言がよく使われていました。
つまり従業員さんを、『 家族のように大切にする 』という意味です。当時どの程度の店が、言葉通りに実践できていたかは判りません。しかし今後リーダーや経営者は、この様な認識の有無で従業員さんから評価を下され、従業員さんの定着率・離職率を、従前以上に左右することになると考えます。
 それでは私達は、『 人を大切にする 』ということをどの様に考え、実践すれば良いのでしょうか?
本コラムでは、以下に二つのエピソードをお話しいたします。従前の私のコラムのいくつかと併せ、考えるヒントにしていただけましたならば、幸甚に存じます。

 私のメンターは東証一部( 現在の東証プライム )上場企業の創業者でしたが、会長職在任中に、惜しくも急逝されました。この方は、『 会長でも一社員でも、人としては対等 』という信念を赤心として持っておられ、パートさんや新卒採用の若者までも『 仲間 』と呼び、『 可愛くてしょうがない 』と言ってそれは大切にしておられました。その会長室には、社員さん全員の顔写真がガラスで挟み込んだ大きなテーブルが有り、会長は顔も名前も所属部署も、全部把握していました。そして毎年その人達の誕生日には、お気に入りの花屋さんから花束を贈っていたのです。その様なお人柄を反映して慕われ様は尋常でなく、訃報に接した取締役までもが親を亡くした子供の様に、恥も外聞も無く悲嘆にくれていました。
因みに、会長に心酔する社員さん達の奮闘で、会社は上場以来30期連続で、増収・増益・増配を記録しました。

 また、私の古い友人に、障碍を持つ人々に対し、明るく健康的かつ充実した職場を創出するNPO法人の理事長がいます。そしてその職場には、『 一週間って早いですね~ 』と口癖の様に話すダウン症の利用者さんがいます。友人はその度に満面の笑みで、心から『 本当に早いですね~ 』と応えているのです。しかもその一言は、実に自然なものでした。私は、痛く感銘を受けたことを率直に伝えました。すると友人から、『 私だけでなく職員全員が、利用者さんを自分の子供だと思って接しているのよ。だから誰もが、同じ対応をするの 』と切り返されました。私はその、心底相手を思い遣る偽りの無い生き様と言動が、スタッフさん達に伝播したのだと理解しました。

 何れにせよ『 本心から 』というのが、『 人を大切にする 』ことのキーポイントだと思います。
私はよくクライアントさんやその従業員さんにお話しするのですが、大事なことは上記の例でお判りの様に、結局『 人の心を動かすものは、人の心でしかない 』という事実なのです。
『 世の中は金が全てだ 』と公言する人がいます。確かにお金、つまり金銭的報酬は人を動かします。しかし私は報酬にも二つ有って、金銭的報酬であるところのお金の他に、満足感・幸福感・達成感などの精神的報酬が人の心に及ぼす影響も、重視しなければ落とし穴に陥ると考えます。つまり、お金だけでも上手く行きませんし、また精神的報酬だけというのも、人の心に真に寄り添っているとは言い難いということです。
ただ、ここで一つ付け加えれば、金銭的報酬は、『 可能な中で 』という条件付きでしか増やすことができません。しかし一方で精神的報酬の場合は、相手の立場に立って思いの丈を込めれば込めるほど、上限無く増やすことができるのです。

 どうぞ皆様、若き日の、どこかで働いていた頃のこと、また子供の頃の気持ちを思い出して、従業員さんや若い人達と向き合っていただきたいと思います。

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