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第 30 回 インフレの『 真犯人 』と、スタグフレーションに向かう中での飲食店経営

2022.07.04

 ウクライナ戦争を契機として、エネルギーや農産物などの価格が急騰し、多くの国や地域で歴史的な高インフレに至っています。
しかしよく調べてみると、諸外国だけでなく日本でも、国内企業物価指数も輸入物価指数も、2020年には既に上昇を始めていました( 日本銀行調査統計局2022年6月10日発表の企業物価指数速報 )。
つまりウクライナ戦争( 2022年2月24日侵攻開始 )によって物価高騰に拍車がかかったのは確かですが、物価の上昇が始まったのは、ロシアの侵攻以前であったことが明白です。
 
 それではインフレの『 真犯人 』は、一体何だったのでしょうか?
実は今回の世界的なインフレの最大の要因は、コロナパンデミックを機に、世界中が市中に大量のマジックマネーを流し続けたことにありました。そこにウクライナ戦争による急激な原油と穀物の高騰が、追い打ちをかけたというのが、正確な経緯です。
そのため世界各国の中央銀行は、マジックマネーによって過熱した景気を抑え込むべく、金利を上げることで、インフレと闘わざるを得なくなりました。この結果で生じる自国通貨高も、インフレ抑制には強力な武器となります。従って諸外国の一連の柔軟な対応は、理に適ったものなのです。

 その一方で黒田総裁の日銀は、頑なに利上げを拒んでいます。
その日銀が、仮に政策金利を1%上げた場合、財政出動( アベノミクス第2の矢 )で積み上げた1241兆円もの公的債務の金利負担は、莫大な額に上ります。日銀自身の債務超過の心配もありますし、日銀も日本政府も、金利を上げるに上げられない状態に陥っているのです。

 私は今、年率で卸売物価指数30%、消費者物価指数25%を記録した『 狂乱物価 』( 1974年 )を思い出しています。あの時も当初言われた第4次中東戦争による原油高ではなく、日銀による貨幣の供給過剰が、真のインフレ要因だったのです。この事実は、後のデータによる検証でも、実証されています。

 さて、我が国は食料も燃料も自給率が極めて低い為、素原材料価格の高騰は、輸入物価を押し上げ、私達の生活を脅かすことになります。そこに追い打ちをかけているのが、最近の急激な円安です。消費者物価指数は9か月連続で上昇しており( 総務省統計局発表 )、日銀が目標としてきたインフレ率2%も、2か月連続で上回りました。ただ、日銀調査統計局発表の企業物価指数( 2021年1月~2022年3月 )によると、素原材料価格は66,8%上昇しているにも拘わらず、最終財は5,4%の上昇に留まっています( 所得が伸びないので消費が弱い為 )。しかし我慢にも限界がありますので、今年後半にかけ、本格的に価格転嫁が進むと観測されています。

 この急激な円安を短いタームで捉えると、今年3月15日、米国FRBが0,25%の利上げを発表したことがきっかけでした。長いタームで捉えた場合では、2012年5月4日に1米ドル79,8円の高値を付けた後、第2次安倍政権が打ち出したアベノミクス( 異次元金融緩和 )が、ターニングポイントになりました。
しかし私はもっと大きな視点で捉えた場合、世界経済の中で日本の比重が凋落の一途を辿っていることに、円安が続く根源的な原因が有ると考えています。
どの国も、ウクライナ戦争の影響で成長率を下げ、更に下方修正をすると予測されています。しかしその中でも日本の低迷が、際立っているのです。象徴的なのは1994年に17%だった世界のGDPに占める日本の比率が、今年は5,1%にまで徐々に落ちてきていることです。それに連れ為替相場は、直近では135円前後に下落しています。

 日本が、金融不安を内在しているか否かは、議論の分かれるところではあります。しかしながら、円安要因は幾つもあり、ウクライナ戦争もエネルギーや食糧の危機も、まだまだ続くと言われています。従って日本のインフレはこれからが本番で、それに連れ消費が落ち込みスタグフレーションに至ると、危惧せざるを得ないのです。

 何れにしても飲食業界は、厳しい環境下で効果的な防衛策を模索・実践しなければ、生き残れない事態になっています。
日本経済新聞の調査によると、今年度に値上げを計画している外食企業は、73%に上るそうです。その理由は、食材価格の上昇が6割、物流費と人件費の上昇がそれぞれ約6割、値上げ幅は3%以上5%未満が最多ですが、5%以上も3割程有ると発表されています。しかしながら売上高が、コロナ前の水準には戻らないと考えている企業も39%に上ります。加えて消費者が節約志向を強めていますから、値上げに動く飲食店の客数や売り上げが、減少してしまう懸念も大いにある訳です。
政府は物価抑制の為の対策に乗り出そうとしていますが、抜本的な対策とは言い難い為、今後も物価上昇は続くことになります。
政府がインフレ税の誘惑に負け、本腰にならないのではと、勘繰りたくもなります。

 アメリカではメニューの価格を上げるのではなく、インフレ対策として『 燃料割増料金 』『 調理場への感謝 』などと称し、勘定書きに余計な項目を追加する飲食店が出てきたそうです。
日本とアメリカでは社会文化も習慣も違いますから、皆様はスタッフさん方と充分な相談をなさりながら、お客さんに好感を持たれるアイディアを、鋭意模索していただきたいと思います。

 スタグフレーション対策につきましては、細かいことまで取り上げたら切りが無くなります。そこで以下に、大きなポイントだけ、記しておきます。
 
 ※最も効果的な対策は、ホスピタリティーやサービス力と商品力の向上ですから、
1,従業員エンゲージメントレベルを高める努力を経た上での、愛される店作りの為のスタッフさんの
  意識改革。
1,ブランディング向上の為の、他の店には無い目玉メニューの開発。
1,原価の低い食材でも、絶品の料理となる新メニューの模策。
1,仕入れ先の変更も含めた、仕入れ全般の工夫。
1,経費も時間も労力も、全ての無駄の排除。
1,値上げのお願い一つにしても、お客さんの心に届く様な文面や、印刷物のグレードのこだわりなど
  ( コピー用紙に、プリンターでの自前印刷などはいただけません )。

 その他にも、皆様のお店に合わせた工夫を、スタッフの皆さんと協同で模索なさり、この不確実性の時代を、鋭意、そして不断の努力で切り抜けていただきたいと思います。

 皆様のご健闘を、祈念いたします。

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