第 27 回 『 愛される店作り 』Part 1 不可欠なのは目的意識と使命感
2021.12.28
『 企業の目的の定義は、一つしかない。それは顧客を創造することである 』
ピーター・ドラッカー
新型コロナパンデミックから早や2年が経ちましたが、オミクロン株の出現もあり、飲食業界には霧が立ち込めたままです。業態変更を始めとしてテイクアウトや宅配市場へのシフトなど、社運を賭けた変わり身で難局を切り抜けようとする外食チェーンもありますが、コロナさえ乗り切ればと、これまで耐えてきた経営者さんもおられます。その様な中で原材料価格の上昇に加えて人手不足による賃金上昇が、緊急事態宣言解除後の回復基調に水を注すかの様に、暗い影を落とし始めました。
人手不足は、コロナ以前にも顕在していました。しかし緊急事態宣言発令後に一度スタッフさん達を減らした為、宣言解除後に急ぎの求人をしても、おいそれとは数が追い付かないのです。最近は現状の人員では充分な顧客対応さえできない為、『 争奪戦 』とも言える状況になってきています。
原因は複合的で、少子化による労働力人口の減少に加えて①外国人労働者のコロナによるせき止め、②コロナ禍で人員整理やシフトを減らされたりした警戒感から、飲食業界が敬遠されがち、③飲食店は職場が密になり易い為コロナを警戒し、働きたい人が集まりにくい、などが考えられます。この対策として求人媒体の中には、待遇の良さに絞って検索できる、特設サイトも目に付くようになっています。内容は採用祝い金の支給や時給を一気にアップしたことを喧伝するものですが、賃金アップしなければ人を引き付けられない切迫感から、今後この傾向は益々高まってゆくと思われます。
あの従業員に手厚いスターバックスに、1店舗と言えど労働組合ができた理由も、原因はこの延長線上にあります。
今後の飲食業界は採用力の向上はもちろんですが、貴重な人財の定着の為にも、内部顧客であるスタッフさん達の処遇改善を目指さなければ、生き残れない時代に入っているのです。
その処遇改善を実現するには、前提条件として『 収益のかさ上げが 』必要です。その為には本コラムの冒頭でご紹介したピーター・ドラッカーが言うところの、『 顧客の創造 』を積み上げてゆかなければなりません。
ではその実現の為には、一体何が必要なのでしょうか?
どんな組織にも旗印としての立派な理念やスローガンが有り、飲食店の中にはそれを額装し、客席にこれ見よがしに掲げている所も有ります。またWebページにも美辞麗句が並んでいて、それだけを眺めていると、どこもかしこも素晴らしいお店であるかの様に思えてきます。
しかしながら実情はというと、これは私の経験からも言えることなのですが、涙の出るほど素晴らしい経営者がおられる一方で、①営業利益至上主義と申しますか、従業員さんは『 人 』ではなく単に労働力、顧客へのサービスは利益獲得の為の手段としか考えていない、②経営者ご自身に多少の志は有るのだけれど、従業員さんの質的向上には時間もコストも掛けられない、③店の改善はしたいのだけれど、どうすれば成果が出るのか方法が判らない、④問題が有ってもそこに思いが至らず、現状のままで良いと考えている、という様なケースも散見されます。
お客さんから絶大な支持を得て客数・売上・収益を増やす為には、お客さんや従業員さんの心に心底寄り添って、ご自分が顧客ならどんな店で食事をしたいか、またご自分が従業員になるならどんな店で働きたいかを熟考することが必要だと思うのです。
更に私は皆様に、一度原点に立ち返って『 外食産業・飲食店の存在意義 』とは何か、事業運営に当たって実現すべき使命とは何かも、見つめ直されるようお勧めいたします。
飲食店経営は事業ですから、収益を挙げることが運営の柱であったとしても、然るべきだとは思います。しかしお金を稼ぐことそれ自体が事業活動の目的だというのでは、良い結果は得られません。
飲食店・外食産業は何の為に存在しているのかを考察し、明らかになった目的と使命に向かい事業運営をすることが、収益のかさ上げにとって何より肝要だと考えます。更には、『 愛される店作り 』と言ったところで飲食店の拠って立つ所が明確でなければ、お店はどう運営されればより良い結果に繋がるのか、また従業員さん達も何を心掛けて仕事をすべきなのかが判断できません。
例えば医師は、私達の健康を守る為に、病気の発見・治療・苦痛の除去・予防・患者のメンタルケアなどが、その使命として求められます。また警察は、私達の生命・財産と治安を守ることが存在意義であります。その両者は責任を全うすることで、敬愛され頼られ、ご自分達の人生も、充足感と幸福感に満たされます。反対に、もし両者がお金の為だけに仕事をしたとすれば、私達は酷い目に遭い、彼等には誰も寄り付かなくなるでしょう。
翻って考えると飲食業界にも、私達が掲げるべき存在意義と使命が有ると思うのです。
飲食業は扱う原材料の生産者さんから加工・流通業者さんに至るまで、幅広いすそ野を持つ重要産業であり、人の生命と健康のみならず、生きる喜びまでも支える、一生を懸けるに相応しい幸せな職業でもあります。この認識が明確に持てたならば必然的に、私達が何をすべきで何をしてはいけないのかも、見えてくるはずです。
私は、飲食店には、お客さんへの『 様付け 』や心の籠っていない形だけの『 おもてなし 』とは違うもっと大切なことが有り、その意味では飲食業を含む接客業全般の中に、『 魂 』の欠けている事業体が少なからず在ると感じています。また、誰もがしていることを漫然と横並びで行っても、他店との差別化はできませんし、お客さん方からの本物の支持も、得られるものではありません。
ファンクル運営会社ROIの調査によると、コロナ下でのお客さんの『 再来店思考 』に与える影響が最も大きいのは、『 接客姿勢と笑顔 』だとのことです。ただ、ここで注意しなければならないのは、接客姿勢とは型のことではなく心根の問題であり、心も笑顔も見せかけの温かさなど、直ぐに見破られてしまうということです。
人口減少だけを考えても飲食店の数( 客席数も )は飽和状態にあり、今後は、お客さんからも働き手からも厳しく選別され、淘汰もされる時代に入ってゆきます。
愛される店作りを鋭意行うことで『 顧客の創造 』の継続が担保され、結果として築き上げられた強靭かつしなやかな飲食店は、来るべき不確実な時代にあっても、生き抜けるようになるのです。
最後に一つ付け加えますと、『 経営学の父 』と謳われたピーター・ドラッカーの最大の関心事は、『 人を幸福にすること 』というものでした。
次回第28回のコラムは『 愛される店作り 』の Part 2と題し、私達は外食産業従事者として具体的にどうすれば良いのか、ご一緒に考えてゆきたいと思います。