第 21 回 新型コロナウイルス感染症と飲食店 (1)
2020.02.06
中国武漢市を発生源とする新型コロナウイルスの拡散が、最悪のタイミングで起きてしまいました。
中国の春節を前にして、1,100万武漢市民の内500万人が、日本を含めた世界各地に移動してしまったと言われています。この時期に中国全土では、延べ30億人もが大移動するのだそうです。
しかも中国政府による初動対応が遅れ、WHOが緊急事態宣言を発したのが遅れたことも、感染を拡大させる原因となりました。既に中国以外でも死者が出て、世界各国は対策に苦慮し、不安も募らせています。武漢を中心とする中国湖北省では、人から人への感染が繰り返され、町中で誰から移ったか判らない『 市中感染 』の段階に入ってしまいました。
政府と行政の対応が拙かった日本でも、封じ込めができず、市中感染を起こす可能性を排除できないと言う専門家もいます。
しかし考えてみるとスペイン風邪を始め、いつの時代も私達は、未知の感染症の脅威に曝されているのです。
2003年に猛威を振るったSARSは、幸運にも日本では感染が現れずに終息しました。しかし2012年に初めて発生したMERSは、未だサウジアラビアなどで流行が終息していません。新型インフルエンザも、幾度も流行を繰り返してきました。従来型のインフルエンザも、毎年必ず流行期を迎えます。
ただ幸いにも専門家によると、今回の新型コロナウイルス感染は、インフルエンザと同じ対策を敢行すれば、防げる可能性が高いとのことです。マスクが飛ぶように売れ市場から消えてしまいましたが、最も効果的な対策は、やはり徹底した手洗い( アルコール消毒も含む )だと言われています。
私の店では感染症予防のため、2008年から『 手の消毒用のアルコールボトル 』を全席に置き、お客さんに使ってくださるようお願していました。その際もし言い方が拙いと、『 お客さんの手は汚い 』と聞こえてしまいます。そのため細心の注意と満面の笑顔で、『 どうぞご自由にお使いください 』と付け加えるのです。
未だもし消毒用アルコールを用意されていないお店が有りましたならば、この新型コロナウイルスの流行を機に、是非その設置をなさるようお勧めいたします。手掴みで食べるパンなどを提供するお店では、必須であると考えます。
飲食店で最も大切なことを、もしたった一つだけに絞れば、それは衛生管理に他なりません。
私達は食材の衛生管理はもちろん、手指や調理器具の消毒・洗浄など、あらゆることに心を配っていました。前回のコラムでも申し上げましたが、私達の手指を常に、舐めても安全な状態に保ったのです。
営業用の電話や携帯も、開店前にアルコール消毒をしました。特に注意したのはお金を扱った後の手指の洗浄で、レジスター横の消毒用アルコールも使い、衛生管理を徹底しました。
そしてこれはお客さんに対し極めて失礼な話ですが、心構えとして、『 多数のお客さんの中には、ご病人がおられるかも知れない 』との認識で仕事をしていたのです。つまり食後の食器を下げた私達の手を衛生的にしていなければ、お客さん方の安全を守れないという認識です。また私達は、お客さんへの衛生管理を徹底することが、結果として自分の健康を守ることになると認識していました。
その他でスタッフに徹底して守ってもらったことは、もし出勤前に発熱等の体調不良があった場合、決して出勤せず医療機関を受診するという約束事でした。これは職業倫理としても同僚に対する配慮としても当然なのですが、実践できないお店が有るようです。しかしながらお客さんと従業員さんからの信頼を得て長期継続営業をする為には、従業員さんが自主的に休んだ場合の給与はどうするか等、全店を挙げコンセンサス作りをなさるべきだと思います。
さてこの新型コロナウイルスの拡散が、一体どの様な経過をたどって終息へ向かうのか、専門家にも見当が付かないそうです。
しかし中国へのフライトを停止した航空会社は、既にかなりの数に上っています。それらの航空会社は、そこまで事態が切迫したと見なしているのです。この様な状況下では中国以外のどの国でも、最悪の場合にはSARS流行時の香港の様に、飲食店が休業を余儀なくされる事態が起きるかも知れません。
また現況の日本でも、お店として様々な判断を求められる場面が出て来るかと思います。例えば医学的には予防効果が限定的とされる市販のマスクですが、従業員さんの心情としては、着用したい人も出ることでしょう。この様なケースでは、よく話し合いをなさるようお勧めいたします。そしてその結果が着用ということになれば、張り紙やリーフレット等で、お客さんの理解を得ることが必要となります。
文面は個々のお店の事情によりますが、あくまでも、お客さんを警戒する気配を見せない配慮が求められます。感染症の拡散防止に咳エチケットは有効ですから、そのあたりをマスク着用の、お願いの理由に使う方法が良いかと思います。
輸入感染症の専門家によると、新型コロナウイルスの今後については、楽観と悲観の幾つかのシナリオが考えられるそうです。しかし何れにせよ従前以上の徹底した衛生管理を続けてゆくことが、何より肝要であると考えます。是非ゾーニングや消毒など最有効のマニュアルを作り、繰り返し研修をなさって、浸透を図られるようお願いいたします。
グローバル化が進んだ今日では、パンデミックが起きやすい状況が生まれています。人が地球の裏側まで行くのに、1日あれば充分だからです。
今回の新型コロナウイルス拡散が、これ以上の事態悪化に至らないよう、ただただ願うばかりです。